決戦はVALENTINE

                                                                             (side 大石)




なんで今日はこんなに英二に会えないんだろう?


結局英二は朝練に顔を出さなかった。

その事が気になって、一時間目が終わったら、学校に来ているかどうかだけでも確かめに行こうと思っていたのに、授業が終わる寸前に先生に用事を頼まれてしまった。

断れるわけも無く、用事を済ませて帰ってきたら、隣の席の子が英二が会いに来ていた事を教えてくれた。


そうか・・・学校には来ているんだな。


来ていると聞くまでは、ひょっとして、風邪で寝込んでいるんじゃないか?とか、 学校に来る途中で事故にでも遭ったんじゃないか?とか、そんな心配をしていたけど、

来ているなら安心んだ。

そう思って次の休み時間に英二の顔を見に行こうと出かけたら、今度は英二が教室にいなかった。

会いに来た事を不二に伝えて貰おうと思ったけど、不二もいない。

仕方なく次の休み時間に出直そうと考えたが今度は女子に捕まり・・・

そんな事を繰り返したまま結局午前中は会えないままだった。
















昼休みに入って頼まれていた委員会の仕事を終わらせた俺は、今度こそ英二に会おうと英二のクラスに向かう途中にまた女子に声をかけられて

今度はこんな校舎の片隅に来てしまっている。



「大石くんの事がずっと前から好きでした」



チョコを渡されて告白される。今日はコレで何回目なのだろうか?

何度繰り返しても、まったく慣れない・・・

自分の中の答えは決まっていて、それを告げる事で相手がどんな顔をするのかも大体想像出来るんだけど、やっぱり慣れない。

毎回俺なんかに好意を持ってくれてありがとうという気持ちと、本当にごめんなさい。

そう思うだけで精一杯で・・・

後は何とか傷つけないように、言葉を選んで断る。



「ごめん。今はテニスの事だけしか考えられないから・・・」



これはかなり嘘だけど、本当は英二の事が好きだからって言いたいんだけど、話がややこしくなる事は避けたいし、

何よりこう言った方が早く引き下がってくれる事に気が付いた。

こういう時、テニス部レギュラーで副部長を務めているって事実は有りがたい。

後はこの場を早く立ち去って、残り少なくなってしまった休み時間の間に英二に会っておきたい。

告白はすべて断わっているとはいえ、チョコは受け取ってしまっている以上やっぱり何処か英二に後ろめたさを感じていたから。


英二だってたぶんチョコは受け取っていると思うんだけど・・・

だけど・・・もしこんな所を英二に見られたら・・・・

英二の事だから『俺はいいの!けど大石は受けとんな!!』とか言うんだろうな・・・

そこが英二らしいといえば、英二らしいんだけど・・・

思わず苦笑いしそうになって止まった。

まだ目の前に告白してくれた子がいるのに、英二の事を考えてしまう。

これって不謹慎だよな・・・・

でも想像すると、英二の声が今にも聞こえてきそうで・・・



「大石っ〜〜〜〜!!!!」



そうそう。そうやって俺の名前を呼んで・・・って

えっ? 英二?

英二の声が聞こえた気がして、キョロキョロ辺りを見渡したけど、英二の姿は見えない。

そもそもこんな人気の無い場所で名前なんて呼ばれるはずないんだ。

今朝から英二に会ってないし、英二の事を考えていたからな?

それで英二の声に聞こえたのかも・・・

重症だな・・・俺。



「大石っ〜〜〜〜〜のバカ〜〜〜〜〜〜!!!!」



やっぱり英二だ!!!


声のした方へ振り向くと3階の廊下に面した窓から英二が身を乗り出して叫んでいるのが見えた。


うわぁああああ〜〜〜!!!!



「英二っ!!あぶないよ!!」



思わずその姿に叫んだけど、英二の顔はかなり怒っている。


一体いつから見ていたのか・・・


俺は目の前の女の子に『そういう事だから、ホントにごめん』と告げて走り出した。









校舎の中に入って、英二のいた場所を目指して全速力で走る。


まだあの場所にいるよな?


階段に差し掛かった時も脇目もふらずそのまま駆け上ろうと、階段を踏み込んだ。

その時に階段を降りて来た人物とぶつかった。



「うわっ。すみません。大丈夫ですか?」.



イタタタタ・・・と頭を押さえながら謝ると、聞き慣れた声がした。



「あぁ。大丈夫だ」



その声に顔を上げると手塚が眼鏡を直していた。



「てっ手塚!!すまない。ホントに大丈夫か?」

「あぁ。大丈夫だ。それより丁度よかった。お前に伝える事があって探していた所だ」

「俺に?どうしたんだ」

「今日HRが終わったら、一度職員室へ行ってくれないか。竜崎先生と3人で今度の練習試合のオーダーを決めようと思う」

「あぁ。わかった。必ず行くよ。それで他には何かあるか?」

「イヤ・・・この話だけだが・・・」

「そうか。じゃあすまないけど、俺。今急いでるんだ」



いつもならもっとゆっくり話をするんだけど、今はそんな事を言ってられない。

手塚には悪いけど、急いで英二の所に行かなくっちゃ・・・



「じゃあ手塚。また後で」

「あぁ」



手塚と別れて今度は降りてくる人に気をつけながら、猛ダッシュで階段を駆け上がった。



「英二っ?!」



ようやく英二が身を乗り出していた3階の窓まで来たが、もうそこには英二の姿は無く 窓も閉められていた。


遅かったか・・・

急いで来たつもりだったけど・・・

英二怒って教室に戻ってしまったのかな・・・・?


3階の窓から先ほどまで自分がいた場所を覗いて見た。

人目のつかない場所だと思ったけど、案外良く見えるんだな・・・

英二はいつからココで俺を見ていたのか・・・?


そんな事を考えていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。



結局ちゃんと英二に会う事が出来なかったな・・・

どうしよう・・・かなり怒ってたよな・・・



英二の怒った顔を思い出して、大きくため息をついた。

ハァ・・・・


仕方がない、後でちゃんと謝ろう・・・





大石はいつも謝ってるなぁ・・・がんばれ大石☆


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